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京都地方裁判所 昭和61年(行ウ)6号 判決 1987年1月26日

京都市中京区油小路通夷川上ル橋本町484番地

原告

富田建設株式会社

右代表者代表取締役

富田順一

右訴訟代理人弁護士

森川清一

京都市中京区柳馬場通二条下ル等持寺町15番地

被告

中京税務署長 前田輝郎

右指定代理人

田中治

外6名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

1  被告が原告に対し昭和59年3月31日付でした原告の昭和56年7月1日から昭和57年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨。

第二主張

一  請求の原因

1  原告は,不動産売買等を目的とする株式会社であるが,昭和57年1月21日,訴外京都市土地開発公社に対し,原告所有の京都市伏見区醍醐多近田町5番1及び同町12番の宅地2筆(以下,本件土地という)を代金2億4,094万3,107円で譲渡した。

2  原告は,原告の昭和56年7月1日から昭和57年6月30日までの事業年度(以下,係争事業年度という)の所得金額の計算上,右本件土地譲渡による譲渡益2億1,019万4,381円につき,租税特別措置法(以下,措置法という)65条の2第1項(収用換地等の場合の所得の特別控除)の規定により3,000万円を損金の額に算入して,別表1確定申告欄記載のとおりの確定申告をした。

3  被告は,昭和59年3月31日付けで原告に対し法人税の更正及び過少申告加算税賦課決定(以下,本件処分という)をした。その詳細は,別表1更正処分欄及び別表2に各記載のとおりである。

原告は,昭和59年5月28日に本件処分に対する異議申立をしたが,申立後3か月を経過しても異議決定がなかったから,同年9月3日に審査請求をし,審査請求につき昭和61年2月17日付けで棄却の裁決があった。

4  しかし,本件土地がたな卸資産(商品)に該当するとする被告の判断は誤りであり,本件処分は違法である。

よって,原告は被告に対し,本件処分の取消を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1ないし3の事実は,全て認める。

三  被告の抗弁

1  措置法65条の2はたな卸資産(法人税法2条21号)の譲渡益には適用されないところ,本件土地は不動産販売業者である原告が販売の目的で所有していた土地であり,これが原告の商品としてたな卸資産に該当することは明らかである(東京地裁昭和47年12月14日判決,税務訴訟資料66号1216頁,最高裁昭和54年11月15日判決・税務訴訟資料109号389頁参照)。したがって,被告は,原告主張の損金3,000万円を係争事業年度の所得金額に加算した。

2  また,原告が係争事業年度確定申告書に記載していた交際費のうち95万円については,その内容が不明であるから,係争事業年度の所得金額に加算した。

3  なお,右1及び2により原告の係争事業年度の所得金額が増加したことに伴い,別表2記載④及び⑤のとおりの減算をするべきこととなる。課税留保金額及びこれに対する法人税額は別表1更正処分欄記載③及び④のとおりである。

4  よって,本件処分は適法である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実中,本件土地が不動産販売業者である原告の販売目的の土地であったことはあえて争わない。

しかし,法人税法2条は,たな卸資産を商品等とし,固定資産を土地等として区分して定義しているのであるから,このように明確に区分している以上,土地は,販売の目的をもって所有するものであっても,これをたな卸資産と解する余地はなく,被告の抗弁は理由がない。

2  抗弁2及び3の事実は認める。

第三証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおり。

理由

一  請求原因のとおり,不動産販売業者である原告が本件土地譲渡により譲渡益を得たこと,係争事業年度の税務手続が採られ,本件処分があったことはいずれも当事者間に争いがない。

原告が販売目的で本件不動産を所有していたことは,原告において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。

二  原告主張の措置法65条の2第1項の損金算入の規定は,法人税法2条21号に規定するたな卸資産については適用されない(措置法65条の2第1項,64条1項)ところ,原告は,「土地」は法人税法2条23号により固定資産とされており,「販売の目的をもって所有する土地」であっても,これをたな卸資産と解する余地はないから,本件土地がたな卸資産(商品)に該当するとした被告の処分は誤りであると主張する。

以下,この点について判断する。

1  法人税法2条21号,同法施行令10条1号は,「商品」をたな卸資産の一つと規定している。一般的に,商品とは販売業者が販売目的で所有している資産と解されるから,土地の販売を業とする者が販売の目的で所有している土地は,正に右規定にいう「商品」に該当すると言うべきである。

2  法人税法2条は,たな卸資産と固定資産とを別個のものとして定義してはいるけれども,しかし,同条23号は固定資産を「土地――その他の資産で政令で定めるもの」と規定し,同法施行令12条は固定資産を「たな卸資産――以外の資産のうち次に掲げるもの」としてその1号に土地を掲げている。このことからすると,法人税法は,土地が常に固定資産なのではなく,たな卸資産に該当する場合があることを予定していると言うべきである。

3  また,本件で問題となる措置法においても,例えば65条の3第1項は「法人の有する土地又は土地の上に存する権利(法人税法第2条第21号に規定するたな卸資産に該当するものを除く。)」と規定し,土地がたな卸資産に該当する場合があることを予定している。

4  原告が主張するように,地方税法341条1号は,固定資産税につき,「土地」は「固定資産」であると規定している。しかし,この定義は,同条が明示するように固定資産税という物税についての規定であって,これとは目的の異なる法人税法及び措置法においてこれと異なる規定ないし解釈をすることができないものではない。

5  以上によると,不動産販売業者が販売目的で所有している土地は,法人税法上はたな卸資産であると解され,その譲渡について措置法65条の2の適用はないと言うべきであり,本件において,不動産販売業者である原告が販売の目的をもって所有していた本件土地をたな卸資産であると解した被告の処分は,適法である。(不動産販売業者の販売目的の土地をたな卸資産と解した判例として,東京地昭和38年(行)第52号昭和39年12月2日判決・行裁集15巻12号2298頁,東京地昭和40年(行ウ)第124号昭和44年9月30日判決・行裁集20巻8・9号1169頁,京都地昭和39年(行ウ)第6号昭和49年3月15日判決・行裁集25巻3号142頁,東京地昭和48年(行ウ)第163号昭和52年7月19日判決・シュトイエル189号15頁・税務訴訟資料95号87頁,東京高昭和52年(行コ)第50号昭和53年7月21日判決・税務訴訟資料102号129頁等がある。)。

三  以上のとおり,本件土地はたな卸資産に該当すると言うべきところ,その余の抗弁事実は全て当事者間に争いがなく,そうとすれば,原告の係争事業年度の所得金額,法人税額及び過少申告加算税額等が別表2及び別表1更正処分欄記載のとおりとなること計数上明らかである。被告が原告の本件係争年分の事業所得金額を過大に認定した違法はない。

四  よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 田中恭介 裁判官 榎戸道也)

<以下省略>

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